Euromonitor Internationalが実施した「Voice of the Consumer: Lifestyle Survey 2024」(39か国、各国1000名を対象に2024年1-2月実施)によると、一人旅をすると回答した人の割合は調査対象国中、日本が最も多かった。世界全体では7.2%であるのに対し、日本は19.2%と5人に1人が一人旅をしていることになる。また、2019年の10.4%からほぼ倍増していることも分かった。
参加者の8割は女性。50代~70代が中心となっている。
昨年ごろから、一人旅ツアーが好きになった。好きな時に好きなところへ思い立ったらすぐに行けることが魅力だ。
そしてもう一つの楽しみは、凛とした本物の「オトナ」たちに出会えることである。皆、一人で参加していることから、無駄話をしない。誰かに頼ったりせず、自分で考えて行動する。かといって、他人をよせつけないバリアのようなものはなく、程よい距離感で話もできる。無遠慮にプライバシーに踏み込むようなことはしない。それぞれが自分のペースで行動することを許容する大らかさがある。
それは1日3~4時間、自然の中を歩く3日間のツアーだった。おそらくは一番の年長者と思われる70代後半の女性Aさんが小さなリュック一つで旅に参加していた。見るからに旅上手。その隣にはきょろきょろと周りを気にしつつ、緊張した面持ちで荷物や行程表の確認をする50代くらいの女性Bさん。現地につき、最初の湿原ウォークでも、年長の女性のすぐ後ろをその女性が歩いていた。
2日目の昼時、たまたま彼女たち2人と同じテーブルに座ることになった。
「私、若いころは百名山を制覇したの。海外の山にも挑戦したわ。でも、今は低山ハイキングに変えたの。体力が落ちてきても、山が好きだから、それはずっと続けたいのね。」とAさんは朗らかに笑った。
「ああ、それであんなに歩き方が上手なんですね。私、後ろを歩いていてとても参考になりました。山道って複雑だから、どこを歩いたらいいかわからなくて。あなたの後ろを自然と歩くようになりました。」とBさん。
「もしかして、初めての一人旅ですか?」と私が尋ねると、「いえ、2回目。初めて行ったとき、皆さんが親切にいろいろ教えてくださるし、家族から解放されて自分になれる時間がとても楽しくて。今回もエイヤってきちゃいました。」恥ずかし気にそう話してくれた。
その後はランチで出た料理の話や歩いた時に見た花の話で盛り上がり、食べ終わるとそれぞれ好きなタイミングで席を立った。
「やあ、おはようございます。」と向こうから声をかけてくれた。「これから〇〇神社に行こうと思って。ご一緒しませんか?」と誘ってくださった。
「はい、喜んでお供します。」とついていくことに。神話に詳しいCさんは、道すがらその土地にまつわる神様の話を面白おかしく滔々と話してくれた。
神社に着くとそこの札をじっくり2人で読みながら何の神様が祀られているのかを確認した。神社の楽しみ方はそれぞれ違うので、別行動。
適当な時間を思い思いに過ごし、「じゃ、戻りましょうか」といって歩き出す。途中、私が「こちらに立ち寄ります」と伝えると、「では僕は先に宿に戻ります」と自然に別れる。
添乗員さんがいるから大丈夫とのことで、心配しつつも出発。そして30分ほど早く集合場所に戻ってみると、そこにはDさんの姿が。
ベンチに座って一心に筆を動かしていた。そう、みんなが歩いている間、Dさんは見事な山々の景色を水彩画にしていたのだ。Dさんの心をそのまま写したかのようなスキッと曇りのない明るい温かい絵だ。
「素敵ですね」と声をかけると、「足が悪いからね、歩けないの。でもね、絵が好きだからこうしていつも山を描いているの。だってね、きれいでしょ。ここにいると清々しいし。」描く手は止めずに、ふんわりとほほ笑んだ。
戻ってくる人、戻ってくる人、Dさんの描く絵を見つめ、一言ずつ声をかける。Dさんの絵は疲れを癒す効果もあるようだ。一人一人と嬉しそうに、丁寧に短い会話を楽しんでいた。
・・・なんというか、気持ちよいのだ。このちょうどよい距離感が。人生の先輩方の、余裕ともとれる懐の深さ、包まれるような柔らかさが心地よい。自分の世界をもち、自分の体力と相談しながら好きな場所で、できることをできる範囲で実現している。
オトナだなーと嬉しくなる。こんな人たちの仲間でいたいと思わせてくれる。
(参考資料)
・Euromonitor International,
Press Release, 18 June 2024
・exciteニュース 2023年11月8日
https://www.excite.co.jp/news/article/Prtimes_2023-11-08-1864-1133/
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