国際長寿センターでは、2010年から2011年にかけて看取りに関する国際比較調査を行い、その中で「理想の看取りと死に関する国際比較調査」を行いました。それは、医師・看護師・介護士・ソーシャルワーカーに看取りに関する理想と実際に行うであろう現実を調べたものです※1。
この調査の中で、例えば各国の専門職に対して末期がんのAさんのケースを提示して、本人にとってどこが終末を迎えるのにふさわしいかを質問し、さらに今までの経験を踏まえて実際にどこで終末を迎えることになることになるかも聞いています。
結果は上の通りで、各国ともに自宅で最期を迎えることが最もふさわしいと考えられていながら、実際には各国ともに専門職から見て自宅ではない場所で最期を迎える場合が多いことを示しています。特に日本はそのギャップが最も大きな国となっています。
また、2021年に日本財団が実施した「人生の最期の迎え方に関する全国調査」(※2)では、高齢者本人に「あなたは、死期が迫っているとわかったときに、人生の最期をどこで迎えたいですか」と質問して、以下の結果(回答全体)を得ています。
「自宅」58.8%
「医療施設」33.9%
「介護施設」4.1%
「子の家」0.1%
「その他」3.1%
さらに、2023年度の「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」では以下の通りです(一般国民の回答)。
「最期をどこで迎えたいですか」
「自宅」43.8%
「医療機関」41.6%
「介護施設」10.0%
「無回答」4.6%
上記のように、高齢者本人、またケア専門職の見方においても自宅での最期は望ましいと考えられていますが、実際の死亡の場所はどこなのでしょうか?
必ずしも各国において継続的に死亡の場所に関するデータを提供しているわけではありませんので、残念ながらやや不ぞろいな表となっています。また、いわゆる住宅系の施設のありかた、死亡直前に入院した場合の扱いなど各国の基準も明らかではありません。しかし各国の「傾向」は明瞭に見ることができます。
上の表で、日本の「自宅」は各国の中で自宅の割合は最も低くなっています。2000年から2020年にかけて13.9%から15.7%へとやや増加しています。各国ともにこの傾向は同じでフランスを除くと漸増といったところです。
伸びているのは各国ともに「ナーシングホーム・ケア付き住宅」で、日本の場合は2000年から2020年にかけて2.4%から12.5%へと大きく増加しています。
この在宅死亡12.5%という結果は、「理想の看取りと死に関する国際比較調査」における終末を迎えるのにふさわしい場所の79.2%、「人生の最期の迎え方に関する全国調査」の自宅で最期を迎えたい58.8%、「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」の43.8%よりも大きくかけ離れています。
このギャップはどこからきているのでしょうか?
「理想の看取りと死に関する国際比較調査」や「人生の最期の迎え方に関する全国調査」では、自宅で最期を迎えたいという本人の意向と可能な限りの医療努力を求める家族の意向に違いがあり、家族の意向が優先される実態が示唆されています。
また、各国において使いやすい後見制度が整備されているかどうかも重要でしょう。後見制度の普及は本人の意向をはっきりと示し、周囲もそれを把握することももたらします。
日本において、高齢者の家族との同居関係は大きく変化しています。2024年度の国民生活基礎調査(※3)によると「高齢者のいる世帯」の中で初めて「単独世帯」が最多となりました。(2024年に単独世帯は32.7%、夫婦のみの世帯が31.8%、三世代世帯は6.3%。1989年(平成元年)には単独世帯は14.8%、夫婦のみの世帯が20.9%、三世代世帯は40.7%)
つまり、高齢者本人からみて、終末期については周囲の人たちが何とかしてくれるという環境が減ってきています。終末期に関する自分の考えを普段から周囲に明らかにしておくことも超高齢社会における高齢者の役割のひとつであると考えられます。
※1「理想の看取りと死に関する国際比較調査」サマリー
https://www.ilcjapan.org/study/doc/summary_1001.pdf
2010年からの調査一覧
https://www.ilcjapan.org/study/index2010_19.html
※2 人生の最期の迎え方に関する全国調査
※3 厚生労働省「国民生活基礎調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html
<大上真一>
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