2020年に生活体制整備事業の一つとして創設された就労的活動支援コーディネーター。役割がある形での高齢者の社会参加を促進するために配置が可能になった職種である※1。これは、介護保険の理念である高齢者の『自立支援』を目指すうえで、既存の就労支援の仕組みだけでは活躍の場を見いだせない高齢者が多いという課題を解決するためのものと考えられている。2022年のデータ※2によると、関東信越厚生局管轄内450市町村のうち、すでに配置されている自治体はわずか2.5%であった。
毎朝、家の周りのあちこちにデイサービスのお迎えバスが停まる。つぎつぎとバスに乗り込むシニアたち。その中に、2軒隣向こうに住むご婦人、すえさん(仮称)がいる。80歳を超え、少し体力が落ち、歩行もバランスが悪く、バスの昇降に補助が必要な様子だ。大丈夫かなぁと遠目に見守りながら過ごしていた。
とある日曜日。玄関を出てみると、目の前の緑道に設置された水道から水をジャンジャン流し、バケツに水を張っている老婦人を発見。おやおや、すえさんではないか。足取りもしっかり、バケツを持つ手も力強く、嬉しそうに花たちに向かって何度も水をバシャバシャかけている。緑道の花たちにかける傍ら、ついでに自宅の植栽にもお水をバシャっとひとかけ、ふたかけ。
緑が陽の光を受けて水滴がキラキラ光る様子を満足気に眺めてゆったりと家の中に入っていった。
いつもとは別人かと思うような「日常を生きる」すえさんの姿がそこにあった。
今年の夏はいつまでも暑かったが、デイサービスがない日には、来る日も来る日も、雨さえ降っていなければ、すえさんは楽しそうに水遣りをしていた。緑道でも、すえさんの庭でも、花たちは暑さの中、元気に咲いていった。
そうしたある日、水道の前を通りかかると、一枚の張り紙が目に入った。「公共の水道につき、私的利用はしないでください。〇〇市」と書かれてあった。さて、すえさんはどうするの??と思っていたら、ちょうど彼女が家から出てきた。
張り紙を一瞥した彼女は、なんと即座にそれをピッと剥がし、クシュクシュッとまるめてしまった。そして何事もなかったかのように、いつも通り蛇口を捻り、バケツに水を張っては緑道と自分の庭の花たちに撒き始めたではないか。
思わず『あっぱれ!』と拍手を送りたくなった。
バケツでの水遣りはなかなかの重労働だ。力も体幹も必要になる。水遣りをすることで落ちた体力を取り戻し、笑顔が増えるならば、これを「しごと」としてすえさんに依頼することはできないのだろうか。就労的活動支援コーディネーターが緑道管理組合等とマッチングしてくれれば、第2、第3のすえさんが集まって活躍するのになぁ、なんて思う今日この頃。
Written by M.K.
※1 国際長寿センター『令和4年度地域包括ケアシステムの構築に向けた高齢者の生活支援・介護予防に関する産業界との協働推進に関する調査研究』報告書
※2 (株)浜銀総合研究所『令和4年度高齢者の参加等を促進する就労的活動支援コーディネーター(就労的活動支援員)の配置に関する調査研究事業』調査結果報告書
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