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認知症の人の「暮らし」を考える#7 「見えにくい困りごと」から考える ―ひまわりストラップと、誰にとっても暮らしやすい社会―

アメリカ滞在中に、「ひまわり(Hidden Disabilities Sunflower)」と呼ばれるストラップについて教えていただく機会がありました。日本のヘルプマークにも通じる考え方ですが、世界的に広がりを見せている取組みとして興味深く感じました。

緑色のストラップにひまわりの模様が描かれたもので、身につけることで、「目に見えない障がい」や困りごとがあることを周囲にさりげなく伝えるための取組みです。この取組みは2016年にイギリスのガトウィック空港で始まり、現在では世界各国の空港や鉄道、商業施設、スポーツ施設などへ広がっています。ホームページを見ると、日本でも羽田空港や成田空港などでストラップの配布や案内が行われているようです。



発達障がい、知的障がい、自閉スペクトラム症、メンタルヘルスの不調、慢性疾患を持つ人など、外見からは分かりにくいさまざまな障がいや症状を持つ人たちが利用しています。ストラップを身につけているからといって、常に何か特別な支援を求めているとは限りません。「少し時間がほしい」「説明をゆっくり聞きたい」「慣れない環境で不安を感じやすい」「必要な時に声をかけてもらえると助かる」といったことを周囲に伝えるための一つの手段として活用されています。

私が関心を寄せた理由の1つは、この取組みがストラップそのものではなく、それを理解する社会づくりも重視している点です。賛同する企業や施設では職員向けの研修が行われており、ストラップを身につけている人に対して、急かさずに対応する、分かりやすく説明する、必要に応じて声をかけるといった配慮について学んでいます。「困っている人が努力して伝える仕組み」ではなく、「社会の側が気づき、理解し、必要な配慮ができるようになる仕組み」を目指していると考えられます。認知症の人の暮らしを考える上でも、この視点は示唆的です。認知症の人の中には、会話や受け答えは自然に見える一方で、人混みや慣れない場所、複雑な手続きなどに大きな負担を感じている人もいます。困りごとが周囲から見えにくいために、不安や戸惑いを一人で抱え込んでしまうこともあります。

以前、若年性認知症のある方のご家族から、服の前後や裏表、ボタンの扱いが難しくなったご本人のために、他の障がい領域で開発された着やすい衣服を購入したところ、とても役立ったという話を伺ったことがあります。

認知症の人に必要な工夫を考えるとき、認知症の人が日々感じている生活のしづらさに関する声を聴くことはとても重要です。一方で、その改善策を考える際は、認知症だけの世界の中で答えを探そうとしてしまいがちです。しかし実際には、他の障がいや疾患のある人たちが積み重ねてきた知見や工夫から学べることも少なくありません。

もちろん、認知症には認知症特有の症状や生活上の困難があります。そのため、認知症の人に特化した支援や理解はこれからも必要です。認知症の人本人の希望や困りごとに寄り添った取組みとしては、認知症の人が「ここへ行きたい」「この操作を教えてほしい」など、自分の希望や必要な手助けを周囲に伝えるための「認知症の人の希望を叶えるヘルプカード®」の普及が進められています。これは、認知症の人本人が望む暮らしを続けられるよう支えることを目的とした、大切な取組みです。

こうした認知症に特化した取組みを大切にするとともに、多様な人々の暮らしとの共通点や違いの両方に目を向ける視点も大切だと感じています。認知症の人が抱える困りごとの中には、他の障がいや病気、あるいは加齢による変化を経験する人たちとも共有できるものがあります。そして、認知症の人にとって暮らしやすい工夫は、多くの場合、他の人にとっても暮らしやすい工夫でもあります。また、認知症分野で培われてきた本人理解や環境調整の考え方は、他の領域にも活かせる可能性があります。学び合い、支え合う関係は、一方向ではなく双方向のものなのだと思います。



認知症だけに目を向けるのでもなく、認知症を見失うのでもなく、多様な人々の暮らしとの共通点や違いを行き来しながら考えていくこと。認知症の人にとって暮らしやすい社会を目指すことは、多様な人々が暮らしやすい社会を目指すことでもあります。ひまわりストラップの取組みは、「認知症の人にとって暮らしやすい社会とは何か」を改めて考えるきっかけを与えてくれたように感じています。

日本福祉大学 福祉経営学部 中島民恵子(Taeko Nakashima)

https://www.nfu.ne.jp/

【参考】

*Hidden Disabilities Sunflower 公式サイト
https://hdsunflower.com/
日本国内での取組みや、賛同する施設・企業についても公式サイトから確認することができます。

*認知症の人の希望を叶えるヘルプカード🄬
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000170500.html
認知症の人の希望を叶えるヘルプカード🄬のガイドやひな形などが紹介されています 

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